中年の危機、だろうか。髪の艶が消え、1枚毛布をかけたようなぜい肉が背中に付き始めている。夜は2時間以上続けて眠れない。闇を走り回る猫とは裏腹に空が白んでいく。
低空飛行の日々に半ば諦念していたところ、「ライフラインチャート」なるものを描く機会を得た。横軸に「年齢」、縦軸に「充実度」をとり、どの時期にどれくらい充実していたかを1本の線グラフに起こす。
約50年の人生を顧みる。この数年では、早期がんを患った。父が亡くなり、母も身体の不自由さが増した。仕事は「待ちの姿勢」から脱却せねばという焦りもある。 明るい面も挙げてみよう。中学3年からミニコミ誌を友だちと作って全国に販売。大学3年で念願の教育系出版社で働き始めた。29歳でIT企業に転職、ニュースサイト編集長としてインタビューに明け暮れた。
43歳で函館にUターン、古民家を利活用する活動を皮切りに、人と人がつながって「まちが編集」されていく面白さにはまった。 さらに、自死した方の遺族を支援する会や「学び」をテーマにしたイベントの開催など、志のある人たちとの連携もやりがいがある。知人たちと種を分け合い、自家菜園で育つ草花も増えた。線グラフを眺めると、蛇行しながらも、今は上昇していることに気づいた。 全米キャリア開発協会元会長のシュロスバーグ氏は「人生は転機の連続だ」とした。転機を眺め、意味付けし、自分の人生の物語を紡いでみる。ぜい肉も人生のスパイスだ。ひとりひとりの物語の集合知が、このまちをつくっている。
泉 花奈(まちの編集者・函館)
2022/11/25 北海道新聞朝刊 コラム「朝の食卓」より一部編集